村越 淳

むらこし じゅん

卒業年:​1997年

現職:Takram

千葉大学大学院修了、Royal College of Art(英国王立芸術大学院)MA Design Products 修了。2008年からTakramやコンサルティングファームにて主に新規事業・製品・サービス開発、未来シナリオ・ビジョン策定に携わる。これまで千葉大学特任助教、東京大学特任研究員として教育研究活動にも従事。作品はニュルンベルク新美術館、上海ガラス美術館に収蔵。Interiorlifestyle Young Designer Award、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品の他、2017年にはアジア人として3人目のHublot Design Prizeファイナリストに選出されるなど、受賞・展示多数。

コクーンシティのリ・デザイン

この半年で世界は大きく変化しました。人々はこれまで気づかなかったこと、見て見ぬ振りをしてきたことに向き合わなくてはならなくなり、後回しにしてきたことを今しなくてはならなくなりました。何がいずれ元に戻り、何が不可逆なものとなるでしょうか。私たちの周りにある多くの製品・サービスはBeforeコロナに最適化されています。現在のWithコロナを経て、Afterコロナの世界が訪れた時を見据え、コクーンシティに関わるモノ・コトをリ・デザインしてもらいます。

なぜ

総探なのか?

 皆さんが生きている今はVUCAの時代と呼ばれています。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Abmiguity(曖昧性)の頭文字をとったもので、先が見通しづらく何が課題になっているのか、それが何によってもたらされているのかも明らかになっていないということを表しています。そこでは与えられた問題を解くのではなく、自分自身で問を発見し、周りと一緒にそれを解決し、新しい価値を自ら創造することが求められています。  

 

 また、リンダ・グラットンが「LIFE SHIFT」の中で語っているように、100年の寿命を与えられた皆さんは「教育→仕事→引退」といった一直線の人生ではなく、何を目的にしていつ学び、いつ働き、いつ休むのかも自分自身で決めていかなければなりません。  

 

 これらは様々な側面からも研究されていて、数年前の研究でキャシー・デビッドソンは「今の子供たちの65%は、大学卒業時に、今は存在していない職業に就く」と述べ、マイケル・オズボーンは「今後10〜20年で、雇用者の約47%の仕事が自動化される」と発表して話題になりました。  

 

 このような時代背景のもと、文部科学省は教職員等の指導体制の在り方に関して『子供たちに「何を教えるか」だけでなく、子供たちが「どのように学ぶか」という視点が重要』という提言を出しています。これらが総合探求の授業を皆さんが受けることになった経緯です。

デザインの

領域

 デザインという言葉から皆さんが思い浮かべるのはどのようなモノでしょうか。ファッション・広告のポスター・iPhoneなど、それらはデザインが扱う領域の一つですが、実際はもっともっと広い範囲を扱っており、手に取れるモノでさえなく、実態が曖昧なコトの場合もあります。  

 

 日本で唯一総合的にデザインを評価しているの制度としてグッドデザイン賞があります。60年以上前に通産省によって創立された制度を源流にしています。そこではあらゆるものがデザインの対象として扱われていて、その範囲も時代とともに変化しています。毎年発表される大賞を見ていくだけで、その次代がデザインに何を期待しているかを垣間見ることができます。

 

 2019年は尿中の僅かな成分から結核菌の存在を判定することができる「結核迅速診断キット」、2018年は「おてらおやつクラブ」というお寺へのお供え物を経済的に困難な状況にあるご家庭へおすそわけする活動、震災のあった2011年はカーナビ搭載車が震災後に通行できた場所を可視化する「通行実績情報マップ」が大賞として選出されました。このように、デザインが関わることのできる領域は想像以上に広くなっています。

見る

ということ

 今回、皆さんにコクーンシティをリ・デザインしてもらう上で、意識してもらいたいことをお伝えします。1つ目は、目の前に存在しているモノ・コトのほとんどは、みなさんの視界に入ってはいても、そこにあることさえ気づけていない、ということです。

 

 見えている(See)と見る(Look)は違います。まず意識して注意深く観察することからスタートしましょう。そうするとこれまで見えていなかったものが見えてくるようになり、その存在の意味を考えることでさらに別のものが見えてくるようになります。

見据える

場所

 2つ目はどのような未来を見据えるかということです。皆さんは今、過去に想像していた未来とは異なる場所にいます。コロナが世界中に蔓延したことで世界の進む道が大きくずれました。では、数年後にコロナが収束するアフターコロナの時代には、元の想像していた未来に戻るでしょうか。それともこの変わってしまった今の生活スタイルのままでしょうか。僕はどちらでもないと思っています。元にも戻らないし、今のままでもありません。それがどういう未来か自分たちで想像してみてください。

 

 一方で、リサーチで集められた事実を元にするとこんな未来になる、だからこういうものを提案します、という事実の積み上げで直接導かれるストーリーを期待しているわけではありません。あくまでリサーチによって得られた事実は未来の方向や可能性を示唆するもので提案の拠り所になるものですが、求めているのは皆さんの提案が導いてくれる斜め上の理想的な未来です。

フィールド

リサーチ

 フィールドリサーチとしてコクーンに訪れ、コロナで変わったモノ・コトや、コクーンの良いところ悪いところを写真に撮ってきてもらいます。リサーチにはチームメンバーと一緒に行ってきてください。同じモノ・コトを見てもそれぞれ気付けることと気づけないことがあるからです。お互いの気づきを紹介しあって見ることの解像度を高めていきましょう。本来コクーンの館内は撮影が禁止されていますが、今回コクーンの方々のご協力で特別に許可していただきました。お客様やお店のご迷惑にならないよう、節度をもってリサーチを行ってください。

アイディ

エーション

 「理想を描く」ことを今回は「コンセプトを作る」と言い換えることとします。アイデアよりも少しぼんやりとした抽象的なものです。これまでコクーンを実際にリサーチして、多くの具体的な事実と個人の意見を書き出してきました。それらを元に、例えば次のような言葉に当てはめてコンセプトを考えてみましょう。「(見つけたコロナによる変化を元に)Afterコロナでも〇〇な意識(行動)は残り続けると思うので、コクーンで〇〇できるようにすべき」、「(見つけた良い・悪いところを元に)〇〇なので、コクーンを〇〇な場所にすべき」。

 

 それらのコンセプトをもとに、新たに何かを設置したり、取り払ったり、新サービスを提供したりといったコクーンシティのリ・デザイン案を提案してください。その時に、近隣住民・お客さん・お店の人など、それぞれにとってどんな幸せに繋がるのかを意識しましょう。

プレゼン

テーション

 プレゼンテーションは、チームごとに提案するモノ・コト似合わせて、模型を作ったり、画像を張り合わせたり、イラストを描いてみたり、適切に伝わりやすい形態をとってもらいます。どうしたら自分たちの提案が伝わりやすく、また何が現実的に自分たちの取れる手段なのか、自分たちなりにベストな表現手段を考えてください。

 

 発表にはコクーンシティから6名の方が見学にいらしてくださいました。皆さんの発表にはコクーンシティを変える可能性があるということです。また、各チームの発表中には、良かったところを見つけて書き出してあげてください。後ほど全員に共有します。

 

 今回のワークショップを通して、デザイナー志望の学生を増やしたいと考えていたわけではありません。もちろんそうなったら嬉しいですが。ただ、デザインというのはどんな仕事、どんな暮らしにとっても奥行きを与える教養のようなものだと思っています。その可能性を少しでも感じてもらえていたら幸いです。皆さんの発表内容は僕の想像を遥かに超えていました。皆さん自身や世界の明るい未来を垣間見た気がします。